今、何かと騒がれているキュレーションサイトについて、次の2点について書きたいと思います。1つは「キュレーター」の正しい意味について。そしてもう1つは約6年前に「キュレーション」という言葉が生れた時に何が起こっていて、何が失われたのか。
長文ですがどうぞ最後までお付き合いください。
はじめに
現在、キュレーションサイトやキュレーションメディアと呼ばれるWebサイトの何が問題として取り上げられているのか。主なものを簡単にまとめると下記のような感じではないでしょうか。- 医療関係の記事において監修がちゃんとされていなかった。
- 記事の内容に問題がないか確認されていなかった。
- 画像や記事を盗用している記事があるようだがこの点については曖昧なまま。
- キュレーションサイトは個人が記事を投稿したものであり運営会社に責任はないと主張されているため、不正行為にたいする責任追及が難しい。
詳しくは、著名な方々の記事をお読みください。
DeNA「サイト炎上」MERY、iemoの原罪とカラクリ
Yahoo!ニュース 個人:山本一郎氏 12/2(金)20:01
DeNA炎上騒動は任天堂が協業を見直してもおかしくない深刻な問題のはず
Yahoo!ニュース 個人:徳力基彦氏 12/3(土)4:04
炎上中のDeNAにサイバーエージェント、その根底に流れるモラル無きDNAとは
Yahoo!ニュース 個人:ヨッピー氏 12/9(金)11:45
いろいろな問題が見え隠れしていますが、私は何より「キュレーション」という言葉の意味がとても曖昧な状態で、運用会社が都合よく解釈して「キュレーションメディア」というものが生み出されていることが一番の問題だと思っています。
ですので、「キュレーション」の語源になったとされる「キュレーター」の正しい解釈と、「キュレーション」という言葉が日本のインターネットに与えた負の影響について、順を追って説明したいと思います。
23年前にキュレーターを本気で目指していた
私は高校時代の10カ月をアメリカで過ごしているのですが、その時に、真っ赤なコートを着た白髪のおばあちゃんと同じく白髪のおじいちゃんが手をつないで楽しそうに美術館に入っていく姿を見て衝撃を受けました。日本では絶対に見られない光景だったからです。
この光景を日本でも見たいと強く思った私は、帰国後に当時では日本で唯一の美術館学芸員を本格的に養成する大学があることを知り受験しました。
この大学では専門のコースでキュレーターになるための知識と技術を叩き込まれました。
「キュレーター」の意味は複数のサイトで解説されていますが、実際の海外の現場で使用されている意味は「学芸課長」です。美術館や博物館などで学芸員たちを取りまとめる現場トップの役職名です。
日本の学芸員が海外で配る名刺に「学芸員」を「キュレーター」と訳して、現地の美術関係者に「その若さで学芸課長とは凄いですね!」と勘違いされるという笑い話は、美術業界では有名なエピソードです。
話しを戻して、大学では美術館学芸員に必要な、作家や作品に関する知識、企画の立て方、企業協賛のつけ方、作家との出展交渉、生涯学習、作品撮影方法、展示方法、作品へのライティング(光の当て方)、展覧会カタログの編集と印刷知識、年間予算でどう収蔵作品を増やすかなど、あげればきりがないほど知識と技術を学びました。
美術館学芸員という仕事は、美術館で展覧会開く際の企画、お金、展示、広報などあらゆるものを数名で行う必要があるのです。それ以外にも美術館そのもの運営の仕事もあるわけですから本当に大変です。
通常であれば、美術館に就職してから現場で何年もかけて知識や技術を習得する必要がありますが、大学では授業で知識を学び、美術館にご協力いただき現場にお邪魔して様々なお仕事をお手伝いすることで技術を学びました。
大学が「学芸員」の養成ではなく、このような大変な仕事をこなす「学芸員」を取りまとめ、取り仕切る「キュレーター(学芸課長)」の養成を本気で目指していたことがよくわかります。
キュレーションという言葉の気持ち悪さ
現在の日本で使われているキュレーションという言葉は、下記のように定義されているようです。
キュレーション【curation】
無数の情報の海の中から、自分の価値観や世界観に基づいて情報を拾い上げ、そこに新たな意味を与え、そして多くの人と共有すること。
佐々木俊尚著「キュレーションの時代」より
これは、なんらかのテーマに沿って美術作品を集めて展覧会(企画展)を開催する学芸員と似ていることから情報を収集・選別・拡散する人を「キュレーター」と呼び、それを行うことを「キュレーション」としたとされています。
学芸員は「自分の価値観や世界観に基づいて」展覧会など開いていません。夏休みであれば小中学生が足を運びやすいかなど、その美術館がカバーする地域にどうやって美術に触れてもらう機会を作るかを中心に展覧会を企画しているのです。
キュレーションという言葉は、学芸員の仕事内容をそもそも勘違いしており、さらには「学芸員」を「キュレーター」と訳して海外で笑われていることも知らずに「キュレーター」という言葉を選んだという2重に間違った表現なのです。この日本でしか通用しない言葉が普及していることは本当に恥ずかしいことなのです。
約6年前に起こったこと
2011年3月、
その時ネット上では、有識者たちがネットメディアについて活発に意見交換を行っていました。そのなかでも特に活発に議論されたのが、情報規制と情報の偏りについてです。
震災でネットメディアの情報の速さや細かさが評価される一方、人が乗っている車が流される映像やご遺体が映っている写真が規制されることなく掲載され続けました。これは悪意があったわけではなく、こういったものを規制したり削除したりするシステムそのものが当時はもちろん現在もないためです。
そこでネットメディアでもなんらかの情報規制が働く仕組みを設ける必要があるのではないか?いや、ネットは規制が働かないからこそ有意義であるのでは?といった議論がされました。
また、情報が多く溢れすぎると、何が正しいのか?どの情報が優先度が高いかなどの判断を個人で行うことが難しくなるため、特定のジャンルのツイートを専門的にリツーイトしてくれるアカウントがフォロワーを増やし、注目を集めていました。芸能ニュースばかりをリツーイトするアカウント、Webデザイン関連情報ばかりをリツーイトするアカウントといった感じです。
1つのニュースサイトから大量の記事情報がツイートされていると、それをすべて個人でチェックするのは無理ですし欲しかった情報を目にせずに流れていくこともあるわけです。それを複数のサイトから注目度の高い記事だけ選んでリツーイトしてくれるアカウントは大変重宝されます。
しかし、この状態はまだ不完全であり、より発展していく方向性が模索されました。そこで情報を選別する人(将来的にはメディア)の個性が色濃く出るとよいといった議論が一部で起こっていました。
例えば、選挙が近くなった時に、選挙情報をまとめてるアカウントだけでなく、特定の政党に偏った情報を発信するアカウントがあった方が、情報が得やすいというものです。
昔に比べ、TVや新聞がどこも同じ情報を発信するようになったため、ネットではあえて偏りのあるメディアの復活が望まれた背景もあります。(新聞にはまだ毛色がありますが、一般の人がそれを分かりやすく理解はできないのが残念です。)
議論が消え、言葉だけが残った
近い未来を見据えて情報規制や情報の偏りについての議論がまだまだ狭い範囲で行われ、これから議論の場が広がっていくように思われた時、それらの議論を押しのけて、ただただ現状の状態だけを表す言葉のゴリ押しが始まります。
それが「キュレーション」です。
「これがキュレーション」、「これってキュレーション」。twitterのタイムラインを「キュレーション」の文字が溢れ、ネットメディアのこれからの議論よりも繰り返し目にする「キュレーションって何?」という質問のやり取りに切り替わっていったのです。
こうしてネットメディアを議論する機会は失われ、大変曖昧な定義の「キュレーション」という言葉だけが残りました。
本来のキュレーションメディアとは
既に市民権をえている言葉に「それは本来の意味と違う」などと声をあげても意味がありませんが、定義が曖昧な「キュレーションメディア」とは本来どのようなものが望ましいのかを私なりに最後にまとめてみたいと思います。
当時の議論とキュレーションの定義をあわせると次のようなものではないでしょうか?
編集の姿勢・考え方・ポリシーを明確に打ち出し、その方針に沿って他のサイトの記事を選別して引用やリンクの手法で紹介するメディア。
6年前に重宝されたtwitterアカウントのように、個性を持った引用集でありリンク集のメディアが正しい定義に思えます。つまり、他のサイトの記事を引用して独自の記事に仕上げるのではなく、あくまでも他のサイトを紹介する記事ということです。
この定義であれば、現在話題になっている監修や著作権などの問題は起こらなかったはずです。
「キュレーション」などという曖昧な定義の言葉が曖昧なまま日本に広がったことが悔やまれます。
Web担当者にお伝えしたいこと
下記の記事でブラックハットSEOとホワイトハットSEOとの違いを詳しく書きました。検索結果に漏れたコンテンツを検索結果に表示させるのがホワイトハットSEOで、検索結果にふさわしくないコンテンツをノイズとして表示させるのがブラックハットSEOという内容です。
関連記事:悪徳SEO業者に騙され続けるWeb担当者
冒頭で紹介させたもらったヨッピーさんの記事にも書かれていますが、世の中の企業やサービスは本当に「儲かれば良い派(自分達さえ良ければいい派)」と「真面目にやっていこう派」にはっきりとわかれます。
SEOの場合はGoogleの対策で「儲かれば良い派(自分達さえ良ければいい派)」(ブラックハットSEO)は消えつつありますが、キュレーションメディアを含めたSEO目的のコンテンツマーケというのはGoogleの対策が入りにくいので簡単には減りそうにありません。
コンプライアンス掲げている企業であれば自社が「儲かれば良い派(自分達さえ良ければいい派)」になってはいけないのはもちろんですが、そういったサイトに広告を出稿することも大変にリスクが高いと言えます。(違法メディアに出稿している会社も同罪的な風潮がネット上にあるため)
知らなかったでは済まされないだけに、何が「儲かれば良い派(自分達さえ良ければいい派)」で、何が「真面目にやっていこう派」なのかをしっかりと見極められるようにしておきましょう。
↓頭を使った後は脳に糖分補給!!
「2011年3月、関東大震災が起こりました。」
返信削除上記は、修正された方がよろしいかと。
ご指摘ありがとうございます。
削除修正させていただきました。